水素吸蔵合金について

 水素エネルギー社会実現のための燃料電池システムの基盤技術は、水素をつくる、貯める、使うです。水素を貯蔵する方法には後で示すように様々ですが、私たちは燃料電池自動車など移動体用の水素貯蔵用の媒体として、水素吸蔵合金(水素貯蔵材料)に注目しています。

水素吸蔵合金

 水素吸蔵合金(プロチウム吸蔵合金)とは、水素を吸蔵し、そして吸蔵した水素を可逆的に放出することができる合金で、水素貯蔵合金とも呼ばれます。また、水素は金属格子中に主に原子状またはイオンの状態で、金属結合またはイオン結合していることから、MH(Metal Hydride)とも呼ばれます。

 一般に水素をある圧力より加圧することにより吸蔵し(発熱反応)、減圧することにより放出します(吸熱反応)。

図 水素吸蔵合金の反応とその用途例

 水素吸蔵合金の用途として
  1)水素貯蔵タンクの媒体
  2)ニッケル-二次水素電池の負極材料
  3)ヒートポンプ
  4)コンプレッサー
等が挙げられます。

 主な水素吸蔵合金は、自己の体積の約100,000%(1,000倍)以上の水素ガス(常温1気圧)を吸蔵することができ、コンパクトに水素を貯蔵することができます。そこで、私たちは"1")の水素貯蔵タンクの媒体としての用途にターゲットを絞って研究を行っています。

水素吸蔵合金に望まれる特性

 ここでは燃料電池自動車の水素貯蔵タンクへの媒体を目的として、水素吸蔵合金において望まれる諸特性について説明します。

1)水素吸蔵放出量が大きい

 自動車の航続距離を伸ばすためには、コンパクトかつ軽量に水素を大量に吸蔵する能力がなければいけません。一般に、mass%(質量%)で評価されることが多く、例えば3mass%吸蔵とすると、合金100kgあたり3kg(33,600リットル)の水素を吸蔵できることになります。
 現在はこの質量あたりの吸蔵量(mass%)について注目されるケースが多いですが、水素吸蔵合金のメリットはコンパクト性ですので、居住性が重視される自動車には体積あたりの吸蔵量(kgH2/m3)についても評価する必要があります。

2)放出圧が1~5気圧程度

 水素の吸蔵放出は、熱力学的な平衡反応として理解されます。このため水素の放出圧(平衡圧)と次に述べる動作温度は、それそれの合金固有の挙動を示します。
 さて自動車の水素タンクを考えた場合、水素を取り出すために減圧(真空)ポンプを取り付けるのことはリーズナブルな考え方ではありません。バルブ(弁)を開けると自然と放出させるためには、大気圧よりわずかに高い圧力で放出することが求められます。
 吸蔵圧は放出圧より高くなりますが、ステーション側に加圧ポンプを設置することにより、自動車側にポンプ等を設ける必要はなくなります。通常は30気圧程度の圧力で水素ガスが充填されます。

3)動作温度が常温付近

 マグネシウム金属やアルカリ金属などは、大量の水素を吸蔵することで知られていますが、これらは300~1000℃あるいはそれ以上に加熱しないと水素を放出しません。自動車タンクに加熱装置を付けるのは、良い方法ではありませんので、燃料電池の排熱を利用できるせいぜい80℃(将来的には150℃程度)以下で、水素を吸蔵・放出する合金特性でなければいけません。
 将来的には寒冷地対策として、氷点下20℃でも動作することが要求されると考えられます。

5)適切な反応速度

 既に述べられているとおり、水素吸蔵・放出は、熱力学的な反応によるものです。このため水素との反応速度は、「必要な時に必要な量の水素」を得るために速くなければいけません。
 実はこの水素吸蔵合金の反応速度がそこそこなのが、貯蔵方式にとってのメリットにもなります。高圧ガスタンクは、充填・放出速度が極めて速いことがメリットですが、万が一のタンク破裂が伴う事故の際に、安全性に心配が残ります。一方、水素吸蔵合金は大気中にさらされることにより、極めて放出速度が遅くなりますので、安全面でのメリットがあります。

6)耐久性が高い(サイクル特性)

 充填(吸蔵)・放出のサイクルを繰り返していると、一般に水素吸蔵合金は水素吸蔵量が減少していきます(劣化)。1000サイクルで初期の容量の90%以上を維持することが望まれています。

7)低コスト

 当然ながら、安く作ることが出来れば、普及へのスピードがよりはやくなると思います。

 日本における水素エネルギープロジェクトでは、水素貯蔵材料の性能を150℃以下で5.5mass%以上吸蔵を目標とされています。

図 燃料電池自動車への水素吸蔵合金タンクの搭載